大津地方裁判所 平成10年(行ウ)2号 判決 1999年12月20日
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、びわこ空港建設のための、環境影響事前評価を行うための調査等の業務を担当する業者との調査等の請負契約の締結及びそのための予算の執行、公金の支出をしてはならない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁
主文同旨
2 本案の答弁
(一)原告らの請求を棄却する。
(二)訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告らはいずれも滋賀県の住民であり、その一部(原告番号一ないし六八)は、びわこ空港の建設予定地(滋賀県蒲生郡蒲生町及び日野町。)に土地を有し、又はその近辺に居住するものである。
2(一) 被告は、滋賀県知事である。
(二) 滋賀県は、蒲生町及び日野町に第三種空港(仮称「びわこ空港」、以下「びわこ空港」という。)の建設を計画しており、被告は、そのために必要な手続である環境影響事前評価(以下「本件アセスメント」という。)の着手を表明し、そのための調査等の事務を近く民間業者に請け負わせる契約を締結し、それに基づく調査費等の公金を支出しようとしている。
そのために、滋賀県の平成一〇年度予算には空港計画等調査費として三億八八三八万八〇〇〇円が計上され、平成一一年度予算には空港計画等調査費として三億九六〇二万一〇〇〇円、空港周辺整備基金造成費として二億五〇〇〇万円、空港周辺整備基金運用資金貸付金として七〇億円、平成一二年度から平成一四年度にわたる債務負担行為として空港基本計画等調査費五億四六〇〇万円が計上されている。右空港計画等調査費には、環境アセスメント費のほか、土地・地質・利水の調査費、測量費などが含まれる。
(三) 被告は、二〇〇二年度(平成一四年度)を終期とする第七次空港整備(七空整)七箇年計画の期間内に、空港の設置許可を申請するためには、それまでに本件アセスメントを終了させなければならないとし、本件アセスメントに対し不同意を表明している地区の地権者の同意を促すなどその調査の準備を進めている。
(四) 被告は、平成一一年七月五日、日野町議会議員との懇談会において、「地元合意以外に計画推進の障害はない。」とし、「計画推進を強調する一方で計画に反対している集落への対応を町側に強く求
めた。」「地元さえ整えば空港はやります。」と断言し、「本年度中、経済アセスメントをやり、経済効果などの数字を説明したい。」と本件アセスメント推進の意見を表明している。
(五) 本件アセスメントにはまだ具体化していない部分があるとはいえ、滋賀県が本件アセスメントヘの着手を表明し、それを撤回せず、推進を公言している現段階においては、本件アセスメントの実施のための請負契約の締結、公金の支出及び予算の執行が行われることは、「相当の確実さをもって予測される」(地方自治法二四二条の二第一項、二四二条一項)といえる。
3 滋賀県がびわこ空港の設置許可を運輸大臣に申請するに際しては、環境影響評価法三一条一項、三三条一項により、空港設置事業者である滋賀県によるアセスメントが終了していることが必要である。しかしながら、本件アセスメントの実施は、以下の(一)ないし(三)の点で違法であるから、その実施のための請負契約の締結、予算の執行及び公金支出もまた違法である。
そして、住民訴訟の対象となる「契約の締結若しくは履行、公金支出」(地方自治法二四二条の二第一項、二四二条一項)とは、住民訴訟制度の趣旨からすると、その手続自体が財務会計法規に違反する場合のみでなく、契約の締結や公金の支出などの目的となった行為が違法である場合も含むと解されるから、本件アセスメントが違法であれば、そのための請負契約の締結、予算の執行及び公金の支出もまた違法である。仮に、違法性が承継されるのは、財務会計の基礎となる非財務会計上の行為が財務会計上の行為と一体的なものと解することができる場合又は密接不可分な関係にある場合に限られるとする見解によっても、本件アセスメント自体は、滋賀県の行う行政手続であるが、それを行うには調査及び評価を行うのに必要な資料の収集を専門業者に委託して契約を締結し、その契約に基づいて滋賀県が予算の執行をしたり、公金の支出をしたりする必要があるから、アセスメントは、契約の締結、予算の執行及び公金の支出と一体ないし密接不可分であるといえる。したがって、本件アセスメントが違法であれば、そのための請負契約の締結、予算の執行及び公金の支出も違法である。
(一) アセスメント自体に内在する違法
(1) 調査の対象に関連して
陸上空港を建設する場合、対象事業の実施地域の全体的・総合的なアセスメントを実施するため、右地域
内の土地に満遍なく立ち入って、その地質・地形・動植物の生態状況等の調査・気象調査・騒音・大気汚染等の調査を行うことが必要であり、そのためには、右実施地域内の土地の地権者の承諾が必要となる。
しかしながら、びわこ空港の事業予定地の面積の四割を占める地権者がびわこ空港の建設計画に反対している。特に右事業予定地の地権者の約三分の一を占める日野町野出地区(以下「野出地区」という。)と蒲生町綺田地区(以下「綺田地区」という。)のうち、野出地区は、住民の総意として住民投票を行った上で、再三にわたり、びわこ空港の建設及びそのためのアセスメントの実施に反対しており、また、綺田地区においても、アセスメントの実施について何らの協議も同意もしていない。さらに、綺田地区では多数の住民が反対を表明し、同地区の総意で平成一〇年一月一二日付けでアセスメントを断るとの意思を表明している。空港ルートの直下で、取付道路が町を分断する日野町上野田地区もアセスメントの実施に強く反対している。
右のとおり、本件アセスメントの実施に必要な地権者の同意を欠く現状の下で、その他の同意のある地権者の土地のみについて虫食い的なアセスメントを実施しても、空港建設のため必要かつ十分なアセスメントを実施したとはいえないから、そのようなアセスメントは違法である。
(2) 調査の時期・期間に関連して
環境影響評価法の規定に基づく基本的事項(環境庁告示八七号)第二環境影響評価項目等選定指針に関する基本的事項五(1)エでは、「調査の期間及び時期の設定にあたっては、選定項目の特性に応じて把握すべき情報の内容、地域の気象又は水象等の特性、社会的状況等に応じて適切かつ効果的な期間及び時期が設定されるものとすること。この場合において、季節の変動を把握することが必要である調査対象については、これが適切に把握できる調査期間が確保されること。」とされており、本件アセスメントを実施する場合、気象観測や生物調査等一年を通じた変化や通年的観測が必要であり、調査だけでも数年は必要と考えられる。
しかるに、被告は、拙速な調査によって駆け込み的にアセスメントを完了してしまおうとしており、そのようなアセスメントは、期間や時期の点でも違法である。
(二) 合意違反によるアセスメントの違法
被告と日野町長は、平成九年三月九日野出地区において同地区の住民と話合いをもち
、これが、「話し合いの結果、住民の総意として同意がえられないときは日野町における空港計画の撤回を決断する」旨の明記された平成七年九月六日に日野町と野出地区、上野田地区が交わした合意書に基づく話合いであることを確認し、被告自らその席上で「住民が反対を決定したときは白紙撤回をする」との態度を表明した。
その後、野出地区は、滋賀県、日野町と八回の話合いを継続し、平成九年一二月二一日に住民投票を行った結果、三分の二以上の多数で空港建設に不同意との態度を決定した。
その直後に被告はアセスメントの実施を表明したものであるが、本件アセスメントは右合意に違反し違法・無効である。
(三) 空港計画の不合理性かつ実現不可能性によるアセスメントの違法
本件アセスメントはびわこ空港の建設のための必要不可欠の手続であるから、びわこ空港計画そのものが空港計画として不合理かつ非現実的で成り立ち得えない無駄な事業であり、地方財政法等に違反すると認められる場合にはそのためのアセスメント調査も違法である。
(1) 需要予測の不合理性
びわこ空港計画は、需要予測が極めて不合理かつ非現実的であり、計画自体が不合理かつ非現実的である。すなわち、びわこ空港計画は年間七六万人、四路線(千歳、福岡、鹿児島、那覇)、一日一三往復という需要予測の上に成り立っているが、<1>そもそも我が国の地方空港に不可欠である三大都市圏の東京・名古屋・大阪行きの路線がなく、<2>九州へは新幹線との競合があることから福岡便の開設は絶望的である上、<3>びわこ空港が予定している四路線は、平成一一年二月航空法改正による需給調整規制の廃止やそれに先立つ運輸省による路線自由枠の配分など最近の急激な規制緩和による航空会社の競争の激化による運賃切下げ等によって不採算路線となることは明らかであり、路線開設の可能性は極めて少ないというべきである。
なお、最近、滋賀県が旅客需要の困難さから貨物や自家用機の利用により需要を補うとの噂もあるが、我が国の貨物や自家用機による空港の需要に照らすと期待できない。
(2) 国の助成の欠缺
運輸省のA事務次官は、平成一〇年四月二日、「国の整備計画があるものの未着工の地方空港は必要性を再検討して、白紙を含めて見直す。」「地方空港の新設はこれからやめようと省内で議論をしている。七空整の中でも計画が難航していたり、新設の意義が著しく少ないも
のは白紙に戻す。そして地方空港はこれから抑制して国際空港に国費を投入したい。」と発言し、平成一一年三月一一日の記者会見では、びわこ空港住民投票条例が否決されたが運輸省のスタンスはどうかという質問に対し、「常識的にいえば、あそこに国の助成をしてまで新しい空港を造る必要性があるかどうか極めて疑わしい。」と発言し、びわこ空港の必要性に対し強い疑問を表明している。びわこ空港の建設費は約一五八〇億円であり、そのうち滑走路本体等の建設費は四一五億円であるが、空港整備法によるとその費用の半分を国が負担すべきところ、右次官の発言によれば、国が費用を負担しないものと推測できる。国が費用を負担しない空港について一五〇〇億円にのぼる莫大な起債(地方債)を自治大臣が許可するはずがなく、また、仮に建設できたとしても国が不要であるという空港に民間航空会社が路線を開設するはずがない。
したがって、びわこ空港の建設はおよそ不可能である。
(3) 土地取得の不確実性
航空法三九条は、運輸大臣が空港設置許可をするためには、申請者がその敷地について、所有権その他の使用の権原を有するか、又はこれを確実に取得できると認められることが必要であるとしている。
びわこ空港の地権者は六集落、四七〇世帯とされており、その全部から用地を取得しなければならないところ、その四九パーセントの世帯がアセスメントの実施にすら反対しており、アセスメントの実施に賛成している集落も空港建設に同意しているわけではない。また、土地収用の方法についても、事業認定の要件である「事業計画が適正且つ合理的な土地利用に寄与するものであること」(土地収用法二〇条三号)や「土地を収用し、又は使用する公益上の必要があるものであること」
(同法一四号)を満たさないので、それによるのは困難である。
そうすると、びわこ空港建設のための用地を「確実に取得する見込み」があるとはいえず、運輸大臣の設置許可を得ることはできない。
したがって、びわこ空港の建設はおよそ不可能である。
(4) 財政への影響
一般に予算案は税収・地方交付税を原資にして、国庫支出金や県債などを加えて、原資の二倍くらいの歳出予算が組まれていることになっているところ、滋賀県は平成一〇年一一月の定例県議会において「県税収入は今年度の当初予算額の一六八一億円を一〇パーセント程度割り込む恐れがある。」と述べており、約一七〇億円の税収不足は、歳出では二倍の削減が必要となるのであって、現在の滋賀県の財政は深刻な事態にある。
しかるに、びわこ空港建設は、一〇〇パーセント一般財源、県債の大量発行による借金を財源とし、財政的にも滋賀県に多大の負担を負わせるものであり、それによって得るべき効用はほとんどない計画であって地方自治法、地方財政法に違反し、違法である。
空港運営の収支について、滋賀県は、「一般的な空港の運営経費は、年間四億円で空港収入は着陸料が中心で、それは(今後)三分の二に引き下げられる。その場合、びわこ空港は開港時三億五〇〇〇万円、五年後で四億五〇〇〇万円となり、空港運営経費は着陸料収入でまかなえ、収支とトントンになる。」といっている。
しかしながら、まず、日本の航空運賃の四分の一は着陸料・燃料税の公租公課であり、これは旅客数や運行距離に関係なく固定的に課税されるので、旅客数が少なく距離が短いほど、運賃に占める公租公課の割合は高くなり、不採算路線は運賃の三〇パーセントを占める。そこで、そのような状況の対策として今後不採算路線では着陸料を安くしようとし、地方空港は三分の二に低減し、将来は全部地方自治体負担にすることが考えられている。平成一二年に、これを三分の二にすることにより、地方自治体の収入減は一〇〇億円、航空会社の負担減は二七〇億円となる。びわこ空港の着陸料が開港時に三億五〇〇〇万円、五年後に四億五〇〇〇万円ということはあり得ない。したがって、収支がゼロになるわけがない。
びわこ空港建設による県財政への影響は多大であるから、びわこ空港の建設は不可能である。
(5) このような実現不可能なことが明らかな公共事業は地方財政法四条一項、地方自治法二条三項一四号に違反する事業であり、そのためのアセスメントも違法である。
4 回復困難な損害(地方自治法二四二条の二第一項本文)
本件アセスメントの実施と、そのための契約の締結と履行、公金の支出は数年にわたって継続し、かつ多額の予算の執行を伴うものであって、それ自体、財政危機にある滋賀県財政に多大な影響と損害を及ぼすことになる。
また、進んでそのアセスメントを基に空港計画が実行に移されれば、滋賀県財政に回復困難な損害をもたらすことになる。
5 監査請求
原告らは、平成一〇年一月五日、滋賀県監査委員に対し、地方自治法二四二条一項に基づき、本
件請求の趣旨と同旨の監査請求を行った。
監査委員は、原告らに対し、同年三月六日付けで、右監査請求につき非財務的行為であるなどとして却下する旨を通知したが、これは誤りである。
6 結論
よって、原告らは、被告に対し、地方自治法二四二条の二第一号に基づき、びわこ空港建設のためのアセスメントを行うための調査等の業務を担当する業者との調査等の請負契約の締結及びそのための予算の執行、公金の支出の各差止めを求める。
二 本案前の主張
1 地方自治法二四二条の二は、同条の定める住民訴訟につき監査請求前置を規定しているところ、右にいう監査請求はそれ自体適法なものであることを要するのであって、監査請求が不適法で却下された場合には、監査請求前置の要件を満たさず、住民訴訟は不適法となる。
本件において経由された監査請求に対し、監査委員は、「請求人が主張する各理由は、いずれも法定の要件を欠いた不適法なものであり、よって、本件請求は住民監査請求の対象とはならないものと判断される。」とし、これを不適法として却下しているのであるから、本件訴訟は適法な監査請求を経由されておらず、適法要件を欠いた訴えとして却下を免れない。
2 現時点において、滋賀県が、本件アセスメントを行うための調査等に関し、右調査等の請負契約の締結に向けられた具体的な行為を行っている状況は存しない。
調査費は文字どおり空港基本計画策定や地質調査等、事業に関する調査費の全体としての金額であって、そのうちアセスメントにどれだけの費用を要するかについては未定である。
原告らが本件で求めているのは、環境影響評価(環境アセスメント)のための調査に関する契約締結、公金支出、予算執行の差止めであるところ、右行為の具体的内容や支出金額が特定されていない現段階では、当該環境アセスメントの特定された内容について行われるべき違法性の判断や、「回復困難な損害」(地方自治法二四二条の二第一項本文)が発生するのか否か等について議論を行う前提が存しない。
右の事情に照らせば、現段階においては、本件アセスメントの実施のための請負契約の締結及び公金の支出、予算の執行が行われていることが、「相当の確実さをもって予測される」(地方自治法二四二条の二第一項、二四二条一項)とはいえない。
三 請求原因に対する認否
1 請求原因1のうち、原告らがいずれも滋賀県の住民であること、その一部(原告番号一ないし六八)が、びわこ空港の建設予定地(蒲生町及び日野町)の近辺に居住することは認め、右原告の一部が、びわこ空港の建設予定地に土地を有することは不知。
2(一) 請求原因2(一)は認める。
(二) 同2(二)のうち、本件アセスメントのための調査等の事務を近く民間業者に請け負わせる契約を締結し、それに基づく調査費等の公金を支出しようとしていることは否認し、その余は認める。
(三) 同2(三)、(四)は認める。
(四) 同2(五)は争う。
3(一) 請求原因3のうち、本件アセスメントが違法であることは争う。
(二)(1) 同3(一)(1)のうち、陸上空港を建設する場合、対象事業の実施地域の全体的・総合的なアセスメントを実施するため、右地域内の土地に満遍なく立ち入って、その地質・地形・動植物の生態状況等の調査・気象調査・騒音・大気汚染等の調査を行うことが必要であり、そのためには、右実施地域内の土地の地権者の承諾が必要となること、野出地区が、住民投票を行った上で、びわこ空港の建設及びそのためのアセスメントの実施に反対していること、日野町上野田地区もアセスメントの実施に反対の姿勢を示していることは認め、本件計画に反対しているのがびわこ空港の事業予定地の面積の四割を占めること、野出地区と綺田地区が右地権者の約三分の一を占めることは不知。綺田地区において、アセスメントの実施について何らの協議も同意もしていないこと、綺田地区で多数の住民が反対を表明し、同地区の総意で平成一〇年一月一二日付けでアセスメントを断るとの意思を表明していることは否認する。
(2) 同3(一)(2)は否認ないし争う。
(二) 同3(二)のうち、被告と日野町長は、平成九年三月九日野出地区において同地区の住民と話合いをもったこと、日野町と野出地区、上野田地区が、平成七年九月六日「日野町における空港計画の撤回を決断する」旨の明記された合意書を交わしたことは認めるが、右三月九日の話合いが、「話し合いの結果、住民の総意として同意がえられないときは日野町における空港計画の撤回を決断する」旨の明記された平成七年九月六日に日野町と野出地区、上野田地区が交わした合意書に基づく話合いであることを確認し、被告自らその席上で「住民が反対を決定したときは白紙撤回をする」との態度を表明したことは否認する。その後、野出地区は、滋賀県、町と八回
の話合いを継続し、平成九年一二月二一日に住民投票を行った結果、三分の二以上の多数で空港建設に不同意との態度を決定したことは認める。
(三)(1) 同3(三)(1)のうち、びわこ空港計画は年間七六万人、四路線(千歳、福岡、鹿児島、那覇)、一日一三往復という需要予測の上に成り立っていること、びわこ空港には三大都市圏の東京・名古屋・大阪行きの路線が予定されていないことは認め、その余は否認ないし争う。
(2) 同(三)(2)は不知ないし争う。
(3) 同(三)(3)、(4)は否認ないし争う。
(4) 同3(三)(5)は争う。
4 同4は争う。
5 同5のうち、原告らが、平成一〇年一月五日、滋賀県監査委員に対し、地方自治法二四二条一項に基づき、本件請求の趣旨と同旨の監査請求を行ったこと、監査委員は、原告らに対し、同年三月六日付けで、右監査請求につき非財務的行為であるなどとして却下する旨を通知したことは認め、その余は争う。
理由
一1 地方自治法二四二条の二第一項一号の規定による住民訴訟の制度は、普通地方公共団体の執行機関又は職員による同法二四二条一項所定の財務会計上の違法な行為を予防するため、一定の要件の下に、住民に対し当該行為の全部又は部の事前の差止めを裁判所に請求する権能を与え、もって、地方財務行政の適正な運営を確保することを目的としたものである。したがって、本件請求のような事前の差止請求については、当該違法な財務会計上の行為が行われることが相当の確実さをもって予測されることが必要である。
2 後掲各段末尾括弧内記載の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 滋賀県は、自らを設置・管理者とする「びわこ空港」との名称の第三種空港を平成一七年度を開港予定年次として、蒲生町及び日野町に建設する計画を有しており、右計画は、第七次空港整備七箇年計画に組み入れられ、計画期間内の事業着手に向けて取組みが進められている(乙四、弁論の全趣旨)。
(二) 被告(当時は稲葉稔がその職にあった)は、平成九年一二月二六日、滋賀県議会のびわこ空港・交通・防災対策特別委員会で、本件アセスメントの実施への準備を進める方針を表明し、平成一〇年五月には、本件アセスメントヘの同意を表明している日野町石原地区、山本地区、蒲生町鋳物師地区について、本件アセスメントの実施の下準備となる
地形などを調べる現況調査を開始し、翌六月には、本件アセスメントヘの不同意を表明している野出地区において、事前に同地区の住民に知らせることなく、地形などの現況調査を実施した。
(以上、甲九の一、六、甲一六、甲一八)
(三) 滋賀県の平成一一年度予算には、空港整備推進対策事業費として八〇億〇八三〇万円が計上されており、その内訳は、一般財源一〇億〇八三〇万円
(空港計画等調査費三億九六〇二万一〇〇〇円、環境こだわり空港構想検討調査費五〇〇万円、空港周辺整備基金造成費補助金二億五〇〇〇万円等)と空港周辺整備基金運用資金貸付金七〇億円とからなっている。
更に別途に平成一二年度から平成一四年度にわたる債務負担行為として空港基本計画等調査費として五億四六〇〇万円が計上されている。
(以上、甲三〇)
(四) A運輸事務次官は、平成一〇年四月二日、記者会見で第七次空港整備計画に盛り込まれた五つの地方空港(びわこ空港はそのうちの一つである。)の新設、拡張計画について、「工事を始める意義の少ないものは白紙に戻すこともやってみたい。」と発言した。また、同次官は、平成一一年三月一一日の記者会見では、びわこ空港の建設に関し、「常識的にいえば、国の助成をしてまで新しい空港を造る必要性があるかどうか極めて疑わしい。」と発言した。さらに、B運輸大臣は、同月一二日の閣議後の記者会見で、びわこ空港の建設に関し、滋賀、京都、奈良、三重の四府県境付近の畿央地域が首都機能移転の第一候補地(全国三ヶ所)に含まれていることに触れた上で、「この問題が前進すれば、びわこ空港は極めて重要な位置づけになる。」としつつも、他方、「そうしたプロジェクトが加わらない場合、需要などから優先順位は高くない。」と発言した。
(以上、甲一四の一、二、甲一五、甲二五ないし甲二九)
(五) 被告は、平成一一年七月五日、日野町議会議員との懇談会において、地元の状況さえ整えば、空港整備を進めていくことを明らかにしたものの、本件アセスメントの着手時期については触れるのを避けた(甲三一の一、二)。
(六) 現在、びわこ空港の事業予定地の面積の四割を占める地権者がびわこ空港の建設計画に反対しており、特に右地権者の約三分の一を占める野出地区と綺田地区のうち、野出地区は、住民の総意として住民投票を行った上で、再三にわたり、びわこ空港の建設及びそのためのアセスメントの実
施に反対しており、また、綺田地区においても、反対を表明する住民は少なくなく、平成一〇年一月一二日付けでアセスメントを断るとの意思を表明している。空港ルートの直下である上野田地区もびわこ空港の建設に反対している。
(以上、甲四の一、甲六ないし甲八、甲一二の一、二、甲一七の一、甲二〇、弁論の全趣旨)
3 右認定の事実によれば、滋賀県は、びわこ空港の建設に向け、その計画を推進する方針であり、平成一一年度の予算において空港整備推進対策事業費を計上し、被告は、滋賀県知事として、びわこ空港建設計画の実施に必要な手続である本件アセスメント実施の下準備となる現況調査を開始するなどの施策を講じているものの、いまだ本件アセスメント及びその実施のための請負契約の締結、公金の支出及び予算の執行に着手するまでには至っておらず、他方で、地元住民の一部からびわこ空港の建設計画や本件アセスメントの実施に対する根強い反対意思が表明されており、国(運輸省)のびわこ空港の建設に関する方針も前記のとおり微妙なものであるというべきであり、これらの事情に照らすと、びわこ空港の建設及びそのためのアセスメントが実施されるか否かは未確定な状態にあると認められる。
そうすると、本件口頭弁論終結時において、本件アセスメントの実施のための請負契約の締結、公金の支出及び予算の執行が行われることが、相当の確実さをもって予測されるとは認められないというべきである。
三 よって、本件訴えは不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 神吉正則 裁判官 末永雅之 裁判官 後藤真孝)